ノベル

□紅葉色の午後
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俺がハンチントン舞踏病のキャリアだと診断されたのは、今から五年程前の話だ。
母親がハンチントン舞踏病のために若くしてこの世を去った直後、父親に受けさせられた遺伝子診断ではっきりと医師に突き付けられた事実。
知りたくなんて、なかった。

キャリアということが分かってからというもの、保険は断られる上に人間関係にも影響が及んだ。

医学部に所属して小児科医を目指している俺だが、もし開業できたとしてもきっとこの病気のキャリアであるがために拒絶する親がいるだろう。
そう思うと、急にこの道を選んだことに対する罪悪感が胸にしこってきて押し潰されそうになる。

そのたびに俺は何の為に医師を目指しているんだ、と自分に言い聞かせてきた。何の為にか、それは患者の病気を治す手伝いをするため。
苦痛からの解放とその後のケアをさせてもらうことで、一人でも多くの人が幸せになって欲しくて。
それから
笑って欲しくて。

なのにそう自身を鼓舞した端から、俺の内奥はじわりと冷めていく。

発症していない今から既にこんな扱いを受ける。
どうせ俺なんて、居るだけで有害扱いされる、生きていても仕方の無い人間なんだ。そうなんだろう?
けれど
俺は紅く染まる宵空を力無く仰いだ。

俺が、俺の夢を叶えようと努力することの何が悪いんだーーー。

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