気ままに戯文

基本連載主。名前はデフォ固定
◆先走ってR2 



もういちど、その声をききたい。


 ♭  VOICE


もし、君が世界のどこかに居るのなら。

もういちど、その声がききたい。

瞳を見つめたい。

なめらかな髪にふれたい。

抱き締めたい。

その頬に口付けたい。

笑顔が見たい。


君はかくれんぼが得意だ。


だって、そうじゃなきゃどうして自分はこんなにいつも、君の事を捜さなくちゃいけない?

ずっと、君と巡り合った始めから、君の事を視界に入れていたくて。

だから、ねえ、もう出ておいで。

一人ぼっちに堪えるのだって、限界があるんだ。




ぼんやりと、君の形がそこに出来上がっていくような気がした。







「――――ぃ、」


誰かが呼んでいる。遠いような、近いような――ぼんやりとした意識では判別がつかなかった。この声は、誰のものだったっけ。


「おい!起きろって、」


ああ、とがっかりした溜め息をついてしまった。少なくとも、この乱暴な感じの言葉は君のものじゃない。


「…こんな所で寝ると、風邪引く」


この声も、違う。これは女の子の声。


「ああもう、無理矢理起こすぞ!」


また男の声。体がぐいと持ち上げられる。そこで漸く目を開けた。


「……やあ、おはよう」


気だるく挨拶をすると、男――ジノは、不満そうに口を尖らせた。


「何だよ、機嫌悪いな!低血圧って訳じゃないんだろ?」

「…おはようスザク」


女の子、アーニャはいつもの調子でのんびり挨拶をしてきた。


「もうすこし、」

「何だよ、もうかれこれ二時間は寝てるぞ?」


ジノは呆れた表情を作って見下ろした。


「もう少しだったんだ」

「……夢?」

「もう少しで、声がきけると思ったんだ」

「そう」


アーニャはそう言うと、くるりと背を向けて携帯を弄りだした。またブログをつけているのだろう。


「声って、誰の」


ジノが不思議そうにきいた。


「出てきてくれないんだよ、かくれたまま」


やっぱり不思議そうにしているジノにそう言い残して、風に当たろうと外に出た。

ソファに転がった頃は茜空だったけれど、今はもう夜の帳が下りていた。



君が居なくても、そんなこと気にも掛けずに星はまたたく。

 

2008/08/17(Sun) 18:03

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