学園

□この想い、気付く頃には
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足が重い
目の前に広がる白が普段から慣れている通学路をさらに長く感じさせる


(天気予報では晴れだと言っていたではないか…)
チラチラと視界に入る白く憎らしいモノを見ながら元就は今朝見た天気予報を思い出していた
気温こそは0度を下回るが降雪確率は0%と示していた筈だが
(…降水確率が0であっても必ずしも晴れるとは限らぬと…何時か習ったな…)
ぼんやりとした記憶を引きずり出し気をまぎらわそうとするも寒いものは寒い
風に拭かれ衣服から露出している肌に雪が当たるとその冷たさに体が体温維持をしようと震える

「斯様に寒い中何故登校しなければならぬ…」

寒気に触れ、かじかんであまり自由の利かなくなった両手の指に視線を向けると苛立ちが増し、誰に言うでもなく小声で吐き捨てる

「あっ元就〜!はよーさん」

苛々しながら重い足を進めていると後方から聞き慣れた挨拶が耳に入り、苛々を隠すことなく声の主へと振り返り視線を送る
長曽我部元親、元就の幼馴染みで(元親の自称)親友だ
サクサクと足跡を残しながら近付いてくる表情はいつにも増して明るい
元就の苛々を気にもしていないらしく、目の前に回り込み顔を覗き込んでもその笑みはまったく変わらない

「今年は降るの早かったなぁ〜初雪!」

合ったかと思えばすぐに解かれた視線は空を仰ぎ、舞う雪の一つを追い掛け足元へと落ちた
元就も同じ様に目だけを動かし追い掛けるが寒さにブルリと体が震えると地に落ちる前に歩みを進める

「雪などただ寒いだけだ。何をその様に喜ぶことがある?」

初雪を子供のように喜ぶ元親とは反対に寒さの苦手な元就は喜ぶことなど出来る筈もなく、毎年元親のテンションの高さの理解に苦しまされてしまう

「何言ってんだ元就、雪っつったら大イベントじゃねーかよ」

「雨と変わらぬわ。ただでさえ寒いというのに…憎たらしいことこの上ない」

一方の元親はテンションの低い元就が理解出来ないらしく、なんでかなぁと何度も呟きながら先を歩く小さな背中を追い掛けて行く
(ホント寒いの苦手なんだな…)
元々小さな背中は体を縮込ませている為に余計に小さく、コートにマフラーといった防寒着が顔以外の肌を隠している
毎年の姿に元親は見慣れている為気にはならないが、端から見ればこの雪の量でそこまで着込まなければならないのかと逆に呆れてしまう程だ

「仕方ねぇな、ちょっと手ぇ出しな」

寒さに震える姿に仕方なしと呼び止めればゆっくりとした動作で顔を此方に向けられた
真っ白な顔に赤くなった鼻が一際目立っている

「…なんだ、用事があるならば後にしろ。凍死でもしたら貴様のせいだからな」

「この寒さじゃ死なねぇっての!…ほらよ」

ジロリと見上げてくる鋭い視線になるべく目を合わせないようにしながら身を屈めると、袖に収まりすっかり冷たくなってしまっている元就の青白い手を元親の両手が包み込んだ
それと同時に焼けそうな程の熱さを包まれた手に感じ、反射的に小さな悲鳴を上げてしまっていた

「っ…き、貴様…」

悲鳴を上げてしまった事が悔しいのか恥ずかしいのか、口元を押さえ真っ赤になって怒りを露にする姿には流石の元親も焦ってしまい手の中にあった物を渡して一歩後退る

「いやっそこまで冷えてるとは思ってなかったんだよ…!」

「言い訳など聞かぬ!覚悟し……カイロ…?」
 
逃げる元親との距離をジリジリと詰めていき拳を振り上げたところで先程握らされた物が何なのかを理解した
通常サイズよりも少し小さい、掌に収まる程のカイロだ

「…ふん、最初から素直に渡しておれば良かったものを…お陰で手が冷えてしまったではないか」

カイロの暖かさに苛々が抜けていったのか機嫌の良い声(端から聞けば普段と変わらないが)で元親を理不尽に責めながらギュッとカイロを両手で包み込む

「わ…悪かったって。さっきから渡すタイミングを探してたんだよ…元々それお前に渡そうと思って持ってきたんだからよ」

機嫌の直った様子にホッと胸を撫で下ろし、それと同時に自然と笑みが溢れた
また機嫌を損ねないうちにと一歩足を踏み出したと同時に前方から普段聞き慣れたチャイムの音が二人の鼓膜を震わせる
それを聞いた途端に元就の顔が青ざめたのは言うまでもない

「な…我としたことが…っ遅刻など…!」

「あ〜こりゃ走っても間に合わねぇな。諦めてゆっくり行こうぜ、な?」

「っ馬鹿を申すな!!我は貴様のような万年馬鹿とは違い成績を落とす訳にはいかぬのだっ!」

ひでぇ!とすかさず元親は嘆くがそれが元就の耳に入ることはなかった
 
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