学園

□総ては計算の上
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玄関を開けた先にはニコニコと機嫌良さげな笑みを浮かべ鞄を持った男がいた

「貴様…」

「よぉ元就!泊まりに来たぜ」

下校はいつものように二人で帰った
だがお泊まりの話なんか「お」の字も出ていなかったはず
何故いきなりこの男は家に泊まりに来たのだろうか?理由は多分、いやきっと、今日だからこそなんだろう
今日は元就の両親が仕事の用事で帰って来ていない
早くても明後日には帰るらしいのだが…元親は二人きりになれるこの日を狙って此所に来たらしい

「上がらせて貰うぜ〜」

「待て、元親……」

急に泊まりに来た理由は想像がついた
だが何故今日から両親が留守だということが分かったのか
この一週間、そんな話を元就から持ち出した記憶は全く無い
まさか親がこの男に教えたのか?否、それはありえない
ならどうして…

「元親…貴様何故急に泊まりに来た?」
「ああ?良いじゃねぇか家隣どうしなんだからよ。それに今日は一人なんだろ?寂しいんじゃねーかと思ってよぉ」

泊まりに来た理由は予想通りだ

「子供ではあるまいし、寂しくなどない。それより何故今日一人だと分かった?」
「そりゃあお袋が教えてくれたんだ。元就君の両親が今日から仕事で2、3日帰って来ないんだってよ」

情報源は元親の母親だったのか…主婦間での情報伝達はやけに早い
余計な事をしてくれたと怒りたいところだが相手は幼馴染みの母親、元親とは違い手を上げることは出来ない。そんな気になれない
ここは諦めて泊めるしかないだろう
盛大に溜め息を吐き、早速元就の部屋に向かって行ってしまった男の後を追い掛ける


「相変わらず綺麗だよなーお前の部屋って」

「どこぞの大雑把な輩とは違うのでな。散らかっていると気分が悪い」

「あーはいはいどうせ俺の部屋は汚いですよーっと」

今にも鼻唄を歌い出しそうな程に上機嫌な元親は肩から掛けるタイプの大きめな鞄をゴソゴソとあさり、遊ぶ為に持ってきたであろうゲームやら何やらを無造作に床へ置いていく
二人きりだというのにいつもと変わらない様子に元就が内心ホッとしたのは言うまでもない

「元就ぃ〜ベッド一つしかねぇし諦めて二人で寝ようぜ」

「却下、断わる」

安心したのもつかの間、やはり話はこうゆう流れになってしまうようだ

「布団を敷いて寝ろ。我に近付くな」

「なんだよ良いじゃねぇか。最近こうやって二人きりで泊まったことなかったしご無沙汰だったしよ」

「焼け焦げよ」

ニヤニヤと下心見え見えの緩みきった表情で言われると羞恥ではなく怒りが込み上げてくる
やはりそれが目的なのかと呆れてさえきてしまう

「貴様の頭にはそれしかないのか。遠慮という言葉を知らないのか馬鹿親」

「遠慮?恋人に、遠慮もクソもあっかよ」

恋人という言葉に元就が弱いのを知っていてワザと強調して言う
赤くなり口を閉じた様子を見てクックッと喉奥で笑う様は学校での元親とは全くの別人を思わせた

どうやら今宵は従うしかないらしい

「馬鹿親…!分かったからさっさと風呂に入れ」

「おっ。じゃあ一緒に入ろうぜ?一人で入んの寂しいんだよ」

「っおい何をする!」

返事を聞く間もなくひょいとその華奢な体を担ぎ上げると元就の言葉には耳も傾けず一直線に風呂へと足を進める
その足取りは嫌に軽い

「俺が綺麗に体洗ってやっからよぉ!安心しな!」

「貴様だから安心ならんのだ!」



「いってぇ〜…何も殴るこたぁねーだろ?」

「当然の報いぞ!」

風呂に入ってからはやはり予想通りに元親はベタベタとくっついてきた
腰が細い、肌がスベスベしてる等のセクハラ発言に我慢の限界に達した元就から鉄拳を喰らったのは言うまでもないだろう

「んな照れることねぇだろ〜?俺等二人きりなんだからよぉ」

「っ誰が照れなどするか!貴様のその考えが嫌なんだ!」

「それでも俺の側に居てくれてんだろ?」

「っ…自惚れるな馬鹿親が!」

振り返ることなくズカズカと元親の前を歩いて行く元就の耳は赤く染まっていた

素直じゃない所がまた可愛いんだよなぁ…

そんな事を言えば今度は鉄拳のみで終わる確信がないから口にすることは出来ずに胸の内に留めておく事にした

「さっき殴った分、覚悟しとけよ〜元就」

随分と前を歩く恋人にそんな独り言は聞こえていなかったようでそんな背中が愛しく見えた


END
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