学園

□君が変わらなかったから
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「貴様は全く変わらんな」

肘を机に置き頬杖を付きながら元就は唐突に口を開いた
ガヤガヤと騒がしい教室内、だが隣の男に投げ掛ける声の妨げになる程ではない

「……は、どうしたんだ急に」

珍しくも席に大人しく座り机に突っ伏していた元親はいきなり声を掛けられ弾かれた様にガバッと顔を上げそちらに目を向けた
銀縁に型どられたレンズの向こうの瞳と視線がぶつかる

「…、幼き頃から貴様は全く変わらない」

「ンだぁ?まぁ変わってねぇとは思うが…元就は随分変わったよな〜」

「………」

何か言いたげに開けられた口は何も発することなくまた閉じられた
何だか懐かしいこと思い出したなぁとケラケラ笑う元親とは反対に、話題を持ち出した本人は困ったように眉を下げ元親を眺めていた

「幼き頃…否、あの時から貴様は」










兵士達から兄貴と慕われ、誰からも信頼されていた男。長曽我部元親
天下には目もくれず自由気ままに日本中の宝を集めては船の上で宴を楽しんでいた
何にも縛られず。囚われず


正反対に
兵士からは恐れられ、その冷淡さに他国の者達からもいみ嫌われてきた毛利元就は孤独に生きていた
全ては毛利の末永き繁栄の為。己さえも駒となった

そんな毛利は長曽我部が気に入らなかった
それは長曽我部も同じで何度も戦をした
しかし二軍の勢力はほぼ互角。
決着はなかなか着かずその間に何ヵ月もの月日過ぎ去った


決戦の日
丁度その日は雨が降っていた
日輪は雨雲に隠され見ることはできない
それが毛利に不幸をもたらした

ぬかるんだ地面、視界を遮る雨


一瞬の隙を突かれ腹部を碇が貫いた


痛い

苦しい


でもこれで無理に冷静な振りをしなくて済む

負けて悔しい筈なのに

自然と口元が緩んだ…気がした










「お〜い、元就ぃ?」

ハッと我に返れば目の前に元親の顔があり柄にも無く慌てて押し退けてしまった
その様子に目を丸くし笑い出してしまうものだから元就は顔を赤くして顔面に鉄拳を喰らわす
やっぱりいつもの元就だと顔を押さえながら悶える様子にソッと溜め息を溢す


─この記憶があるのは我だけ─


「元親」

「あー何?」

「……、…ありがとう…貴様で良かった」


過去の自分を殺したのが
今の自分を愛してくれるのが


貴方で良かった



自然と溢れた笑みに元親は頬を染めていた

 

END
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