学園

□チャイム5分前
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現在の時刻は8時10分
自転車で学校までにかかる時間は30分程
どれだけ急いでもHRには確実に間に合わない


「ヤッベェ遅刻だ!」

イスから腰を浮かせ前屈みになり必死になってペダルをこぐ
春にもなれば外気は暖かいのだが懸命にペダルをこいでいた為に体温も上がり、今は頬を撫でる風が涼しい
だが今はそんなことを呑気に考えている場合ではない

「あと10分も無いぞ!我に恥をかかせる気か!」

「わーってるって!だからこうやって飛ばしてンだろ!?」

「無駄口を叩く暇など無いであろう!」

元親が懸命にこいでいる後ろには元就が乗っていた
二人は幼馴染みで家も近い為、毎朝一緒に登校している
だがいつもはこうして二人で一つの自転車に乗っているワケではない

「大体何故自転車のタイヤがパンクしているのだ!まさか貴様が仕掛けたのではあるまいな!?」

余裕を持って玄関を出たは良いものの、フと自転車のタイヤを見ればパンクしていてこれでは間に合わないと元親から自転車を奪い登校する筈だった
だがその頃元親はまだ寝ているとおばさんに告げられ、勝手に借りて行っても良いのだが何故かそれはせずに仕方なしに起きてくるまで待つことになってしまった
そして漸く起きたのがつい先程
朝っぱらから汗をかいてまで必死に自転車をこぐことはしたくなかった元就は「貴様のせいだ」と責任をなすり付け、そして今に至る

「いや!確かに元就と二人乗り出来るのは嬉しいけどよ…いくら何でもそこまでしねぇ!」

ゼヒゼヒと荒い呼吸に言葉を詰まらせられるがなんとか己の無実だけは訴える
その様子を後ろからジッと睨んでいた元就は元親に聞こえるよう大きな溜め息を一つ溢した

「…もう良い。分かったから急げ」

先程までの冷たく低い声とは一転して呆れたように言えば目の前で風にヒラヒラと舞うワイシャツを指先でツンと摘み軽く引っ張る
それに気付いた元親はスピードを落とし元就を振り返る
額には汗が流れ、朝日に照らされ綺麗に見えた

「なんだ?元就」

「捕まっているからもっとスピードを出さぬかノロマ」

「!…そんな捕まり方じゃ落ちるぜ?ほらちゃんと腰に腕回せ」

言い方こそはキツイがこれが元就なりの甘え方なのだと幼馴染みの元親にはすぐに分かった
ムスッとした表情のままで言われた通りに腰に腕を回して捕まる様子を確認すると前を向き直り「よっしゃあ!」と気合いを入れる

「これで遅刻すればただではおかぬぞ…」

スピードの増した自転車の上で心地好い風を感じながらゆっくりと瞼を閉じた


END
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