学園

□上り坂を駆ける
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頭が悪いワケではない
地球から太陽までの距離も解っている
でも手を伸ばせば暖かく眩しいそれに触れられそうな気がするのだ


「おい元就待てって」

後ろから聞き慣れた低い声が聞こえ振り返る
何時の間にか隣を歩いていた筈の元親は元就よりも数歩後ろを歩いていた
だからとわざわざ待ってやる義理も無しと前を向き直り歩き出すと「冷たいな」と笑いながらもすぐに追い付き隣を歩く男に溜め息を零して見せる
最近下校中はこれの繰り返しだった

「何をそんな考えてんだ?」

「貴様に言ったところで何となる」

「俺がスッキリする」

「散れ」

この会話にもそろそろ飽きを感じてくる程繰り返してきたのだがそれでも元就は話す気がないようで展開が全く進まない
他人に強要することはしない元親も気になりすぎて尋ねる頻度が分刻みになっている

「なぁ何考えてんだよ」

今日だけでも10回目となった問い掛けで遂に展開があった
目も合わせることのなかった元就が顔を上げ漸く二人の視線が絡み合う
その瞳には夕日の光が映り綺麗に見える
す、と小さな手が指す方へ顔を向けると坂の向こうへ沈もうとしている夕日があった
正確には坂と夕日の間、地平線を指していたのだが相手が日輪好きな元就のため迷わず夕日を見る

「この坂を上りたい」

「……はぁ」

通学路と二股に別れそこにある上り坂は普段通る事はなく、此方からでも帰れるには帰れるが元就の体力を考えて敢えて通らないようにしていた
しかしそんな坂を上りたいとはどうしたのかと首を傾げ次の言葉を待っていると急に小柄な体が坂を駆けて行ってしまう

「ちょ、待てって元就!」

「先に坂を上りきれたら先程から知りたがっていたものを教えてやろう」

そんな事を言われてもやはり急な行動を理解出来る筈もなく、兎に角遠ざかる恋人を追い掛けるべく元親も坂を駆け上る
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