稲妻11

□楔
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オレンジ色の眩しい光が私達の間に降り注いで地面に突き刺さった。涼野の銀髪がオレンジ色を反射して眩しくてこちらからは涼野の表情が分からない。夕日が全てを遮断している ― 風に舞う木の葉の音、大通りを走る車がエンジンを鳴らしてタイヤを走らせる音。すぐ側を通り歩いている近所の人々の会話。足音。私達以外は。私達以外の全てがみな私達の背景と化している。全ては遮断された。果たして涼野から私の表情は見えているのだろうか。これほどまでに夕日を邪魔だと思ったことはない。今まで夕日を綺麗だと思うことはあっても、だ。


『私、幸せだった。』


私も涼野も笑わない。ひたすら俯いて地面とにらめっこしている涼野を見ている私。私達二人だけ世界から切り取られたみたいに静かだ。どちらも動かない。指一本動かすのも許されない気がした。
認めたくないんだ、私は。全部。認めて理解してしまったら負ける。寂しい気持ちに負けて今この場で泣き崩れてしまうのが自分で分かっていた。だから嘘でしょって言って涼野の悪い冗談を笑い飛ばそうとしたのに。あまりにも力のない声ですまないと言われてしまった。本当に悪い冗談だ。ああ嘘だ、といって勝手に何処にでも行ってくれれば良かったのに。涼野は少し鈍くなったらしい。


「…すまない。」
『だから、謝らないでってば。』
「…多分、もう一度会うことはないと思う。」
『…そんなに遠くへ行っちゃうんだ。』


私は涼野といる時間がすごく大切で、居心地がよくて、楽しくて、幸せだった。唯一私がキラキラ弾ませて過ごせた時間だった。
辺りがオレンジ色を失って陰る。涼野の顔を見ると、眉を下げて私が今までみたことのない、悲しげな顔をしていた。


「私はなまえが好きだった。」




― 涼野は私のたった一人の友達と呼べる人間だった。あくまで友達だった。私も涼野もあまり人と関わろうとしないタイプだったのに今思えばそんな私達が一緒にいるのは不思議だったかもしれない。でもいつの間にか一緒にいて、隣り、にいて、それが当たり前だった。会話も周りに比べたら少なかったけれど側にいるだけで心地よかった。
明日になったら隣りどころか側にもいやしない、視界に入ることもないなんて考えられないくらいあんなに側にいたのに、な。



『なんで今更』
「ずっと好きだったんだ。」
『…どうせ遠くに行っちゃうくせになんで今更そんなこと言うの?』


涼野はずるい ―
太陽が顔を出してまた街がゆっくりとオレンジ色に染まっていく。
足は勝手に目の前の涼野とは反対の方へ走り出す。足がふわふわしてて地面を蹴っている感覚がない。自分はきちんと走っているんだろうか…もっと早く走りたいのに力が思うように入らない。時々足が絡まって、遂によろけて転んだ。辺りはまたすっかり暗く重たくなった夕日の光が差していて、私の背中にもじりじりとつよく差していた。アスファルトに涙が落ちてもすぐに乾いてしまう。


『きっと私もあんたが好きだったよ。』

これでもう私があんたの名前を呼ぶこともないのか。
思ってたより涼野に依存していた。
本当に好きな人なら会えなくても大丈夫だって思ってた。会えなくて耐えられないならそこまでの関係、そこまでの想いなんだと思ってた。でも違うんだね。本当に好きな人だから一日でも会えないのは辛いんだ。互いに辛いならいっそなんの関係でもない方がいい。少なくとも私はそう思う。
遠距離恋愛があまり実らない理由が分かった気がする。






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このお話から派生して長編ができました。




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