Pop'n music

□呼吸を止めた世界で浮遊する
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ふと呼吸を止めた。
新しく取り込まれるはずだった酸素は遮断されて、出て行くばかりの二酸化炭素が閉じ込められた。
苦しい。

そうだ、やっぱりこの苦しさはあの苦しさとは違う、と思った。
こんな単純な苦しさじゃないんだよ、あれは。
今それを再現してみろと言われたら無理だ。が、なんというか、とにかく違う。
ふわふわしてて、それには故意的な苦しさにはない、魅力的な、ときめきみたいなものがあったと思う。
でも、それは呼吸を止めたときとよく似ていた。

今までになかったその苦しさは一瞬で僕を惑わせ、とりこにした。
あの締め付けられるような感覚が忘れられない。
心地よい苦しさ、といったところか。
ずっとその感覚に浸っていたい気もする。けど、あの感覚は僕の体を動かせなくする。


『ノクス、どうしたの?』


夕食の途中だった。今日の夕食を作った名無しさんが美味しくなかったかな?と不安そうに僕を覗き込んだ。

ドクン、

ああ、これだ。
あの感覚が僕を支配する。僕の神経が麻痺してひとつひとつの動きが遅く感じる。
それ以上に、それに反してこの速い心臓音がよけい締め付けられるほどに速くなって、締め付けても締め付けても止まることを知らない。
呼吸するたびにどこまでも心臓を締め付ける、呼吸を止めたときにもよく似た、それ。

『ノクス?』
「いや…美味しい、よ。」

口がうまく開かない。麻痺してる。きちんと伝わらない。

『そう?ならいいけど。調子でも悪いの?』



そうなのかもしれない。





それが恋だと知るにはあまりに無知だった
(君のせいで体調が悪いなんてそんな馬鹿な話があるものか)




end.

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