稲妻11

□アポカリプス
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“Comme vous avez vu, ainsi devez vous rcoltez.”




俺、お前のことがす



『ぶっ!』

画面に映し出されている電子文に思わず目をひん剥いて吹き出してしまった。
驚愕したのと喜びと照れから生じる焦り、いろんな意味で。もっとも、いきなり過ぎるのが一番心臓に悪くていけなかった。
パッと見は先程私が返信した文章にまたいつものように彼から返信された文章が連ねてある普通のメールだったのだ。
だけど表示されているスクロールバーが表示されている文章の長さに合っていない、つまり、文章の終わりがあるのはかなり後ろだとわかった。
実際にそのまま読み続けると本当にやたら長いスクロールで、すこし下にスクロールしてみただけでは何もない。
スクロールなんてどんなに長くても遠い昔からボタン操作一つであっという間に一番最後までとばせてしまうもので、私がボタン一つ押せば意味なんて成さないのだが。不思議に思ったというよりは少し不審に思った。
彼の示す意図が分からない私は敢えてそのままいつものメールを読むようにしてひたすら白い文面を読みつづける。
しばらくしてスクロールが止まったから彼がここまで焦らしてまで送ってきたものは何かと、玉手箱を開けるような気持ちで少し構えていたら、このメールの最後の一文となる、隔離されて独りぼっちに並んだ、中途半端で不完全な文字の羅列を見つけたわけだった。

もっとも、最初はそれを理解するまで少しかかった。だから単に文字が並んでいるだけのように思った。
一目で膨大な何かを感じてぐちゃぐちゃになった頭の中を一から整頓するように、一つ一つを点呼するようにゆっくり視線を一文字ずつ動かしてようやくはっとした。
そうしてようやくこの文のもつ意味が頭にするすると少しずつ流れ込んできて、そこで初めてさっき自分の頭が一瞬真っ白になっていたのだと気づいた。

これを見たら殆どの人は勘違いするだろう。もちろん、その期待する文字で文章が終わっていたのなら私だって一番嬉しい。
しかし文章は欠けていた。
打っている言葉が言葉だからか、こういうことにはウブな彼が焦ったあまりに最後までしっかり打ち終える前に送信してしまったのかもしれないし、彼だって人間だから可能性としてはないことはない。でもいつもの彼ならば、メールで打ち忘れなんてミスなどしないだろう。
かと言って、言いたいことはカッターでスパッと切るように話す彼が、まさかここまできて濁すとも考え難かった。
文のほぼ全部が明らかなところで言葉が切れていて殆ど意味を成していないので「濁している」といっていいのかすら怪しいけれど。
とにかくなんとも後味がよろしくないのだ。
文章としてはほとんど明らかだなのに、隠されている本来後ろにつく文字のほんの少しの違いが全く違う意味をもたせる。

『俺はお前のことがす、…き、じゃない。』

…考えれば考えるほどあらゆる可能性、たくさんの解釈ができてしまっう。分からなくなるばかりだった。
もしかしたらからかってるだけだったり、なんて。…あぁダメだダメ。

ここでようやく私は画面に映っているその一文から目を逸らした。画面を見すぎたのか目が疲れて頭が痛い。眉間を指で押さえる。

どちらにしろ、返事に困るものであるのには間違いなく、こうしてわたわた考えてる間に少し時間が経ったけれど、パソコンの画面をみてもやはり新着メールはなく。
…彼は私の返信を待っているのではないか。
最後の一文に返事するべきか、否か。
もはや考えること自体がしんどい。

画面をみるのにも疲れ、考えるのにも疲れ、とうとう文字を打って返信する気も削げてしまった私がゆるゆると怠い指を動かしてようやく打ったのは、ただ一文字…いや二文字、彼の言葉につけてオウム返しするように、

き?

とだけ打って送信したのだった。





(「人は蒔いた種を刈り取る」)





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続きます。







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