稲妻11

□隣の花盗人
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素晴らしい音を立てて転んだ。
さらには地面とこんにちはをしたおでこはひりひりと痛み始める。
おでこに手を当てて痛みに耐えていると彼の手が目の前に差し出され、私を心配そうに覗き込んでいた。

「大丈夫?おでこ赤くなってるよ。」

素直にその手を取ろうと思ったけども、ふと滑稽な赤い花を見つけて、彼の腕をとろうとした腕を下げた。
私が転んだ方向に倒れていることから、私が転んだときに下敷きになりぐしゃりと音を立てて潰されてしまった瞬間が容易に想像できる。潰され、萎れた花びらは私のすりむいた膝の傷から出た血で所々赤い滴がついている。
今の私の姿はまさにこの花のようにそれはそれは滑稽な姿をしているに違いない。服は転んだ瞬間に泥にまみれてボロボロ、膝はこの通り赤黒く、そんな自分をみて泣き出した、ぐしゃぐしゃになった私の顔。
転ぶのも怪我するのもしょっちゅうな話なのに、よりによって今、彼と出かけている時に転んでしまった自分を悔やむ。
冬の間は白い雪の下で眠っていたこの草花も、春が訪れこんなにも生き生きと綺麗に咲いているのに、いまだに私の下敷きになっているこの花と自分だけがとても惨めに思えて顔を上げることができない。

「なまえ?」
『…や、』

顔を覗き込んでくるが、こんな顔みせられっこない。彼がこまるのも承知でただその場にうずくまる。

「…ほら、顔上げなよ。」
『…いや。』
「涙、拭けないよ。」
『ん、』

顔は見られないようにと下を向いていたのに、返事をした途端に顔を上に向けられてしまった。日の光が眩しい。

『やだ、見ないでよ。』
「ダメ。」
『酷い顔してるから、』
「そう思うなら、笑いなよ。」

笑った顔が一番綺麗だから、と付け足した彼の言葉に少し反応して目を開けると彼はふわりと笑ってハンカチでぽんぽん、と私の涙を拭いていた。

『吹雪くん』
「ね、連れて行きたい所があるんだ。」

泣き止んだのを見計らって吹雪君が私の腕をとって走り出した。膝の傷が痛む。また転んでしまったら、と言いかけたところで彼の言葉にふさがれた。その時のために手を繋いでるんでしょ?、優しい言葉がふわりと伝わって、私の顔が赤くなった。

「ここだよ。」
『あ…』

よく日が当たって明るい場所にひとつこの場所のものではない石。色や形からそれが何なのかはすぐに予想がついた。
吹雪君はその石の前まで歩いて私を引っ張る。

「アツヤ、可愛いでしょ、僕の彼女。」
『もしかして』
「うん、アツヤと…それから両親の墓。」
『吹雪君のお父さんと、お母さん…。』
「あのね、この子はね。」

なまえっていうんだ。と自慢げに会話する吹雪君の言葉に反して今の私はボロボロだ。まさかこんな汚い格好で吹雪君の家族に会うことになるなんて思ってもなかった。


『やめてよ、私、今、』
「なまえはドジで、よく転ぶんだ。さっきも転んだんだよ。」
『ねえ、やめてってば』
「んでもって恥ずかしがり屋で、ちょっぴり泣き虫、」
『ねえってば』
「だけどね、それ以上にとっても可愛いんだ。」

一瞬頭の中がクリアになる。数秒後に理解してあまりにも臭い事を言われて顔を赤くする。ほら、こうやって赤くなるとことか可愛いでしょ!と彼が続けるのを聞き流したことにして、恐る恐る吹雪君の腕の中から石を見る。
吹雪家の墓、ときっちり並んで彫られた白い文字。
やはり、今の私は不格好だ。

『なんで連れてきたの。』
「いずれにしろいつかはこうするつもりだったし。」

たまたまさ、というとまた石に向き直って吹雪君は話しかける。

「ね、お父さん、お母さん、次来るときは結婚指輪はめて来るからさ、」
『吹雪君?』
「待っててね。」
『吹雪君。』
「あ!なまえもその呼び方変えてよね。」
『なんでよ。』
「数年後にはなまえも吹雪だよ」





僕の彼女を紹介します
そして花盗人はこう続けた






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二周年記念フリーでした。

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