稲妻11

□飛べないヒーロー
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俺が掴んだ手は濡れていた。
彼女は顔を逸らして目元を見せないが、分かっているから無理矢理両手で顔を俺に向けさせたら、悪足掻きをして下唇を噛み俺の手に自分の手を重ねて目を逸した。

いつもそうだ。
俺が来たときにはそうやって泣いていて、俺には何も言わずに唇を噛む。
俺はいつも肝心なときに限ってこいつの傍にいない。
彼女も自分から助けを求めることはなかったし聞き出そうとしても話さない。
俺は情けないことに彼女に何が起こったのかというのをよく知らずにいた。
泣いているのだからそれなりのことがあったに違いないとは思うのに上手く聞き出せない。
話を聞いてやれない悔しさを隠すように、代わりにと、彼女の涙を拭ってやることしかできない。

こんな時、どっかのヒーローだったら。
馬鹿馬鹿しい話かもしれないが、心底そう思う。どんな時も飛んで彼女の元にすぐ駆け付けて助けられるのだろうとか、彼女の泣き顔を最後には笑顔に変えられるだろうとか。


「ごめんな、毎回傍にいなくて。」
『いい。次郎が涙を拭ってくれるから。』

いつも通りの短い返事に呆れて小さく溜め息をつくのもそろそろ自分の癖になってきている。

「いつまでそうするつもりだ。」


彼女は答えない。
黙って、誤魔化していく度に無力を呪うしかない俺に、またそうやって歯痒い思いをさせる。
俺が彼女の話を聞くのに値しないというなら、俺に何が足りないのかくらい教えてくれたら少しはこの気持ちも楽になっただろうに。

俺はいつになったら彼女を本当に支えてやれるんだろう。
ただの支え木でもいい、少しでもお前を助けられるのなら、どっかのヒーローみたいにはなれなくても、小さな木の枝になる、小さな支え木でいい。


『カッコつけたこと思わないでね。』

沈黙を破って言われた言葉に一瞬眼帯の下の右瞼がピクリと動いた。
別にカッコつけようと思ってしているわけじゃない。
いや、彼女の前では当然カッコいい俺でいたいのだけど。


『空を飛べるわけでもないし、顔をちぎって食べさせられるわけでもないんだから。そんなことは考えても無駄。私は次郎がいい。それだけのこと。』


言葉を失った俺に彼女は振り向いて微笑んだ。
やっと見れた久し振りの表情に、目をいっぱいに開いたが校舎の影から差す西陽が眩しい。

彼女を照らす夕日のオレンジ色に溶けて、久し振りのはずの彼女の笑顔がよく見えない。








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