稲妻11

□愛し君の屑紡ぎ
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何処にぶつける宛てもなく怒りと悔しさが空を切って空回りする。
ダンッと鈍く重く発せられた音は自分の手をジリジリと痛めるばかりで癒しはしない。
むしろ癒すどころか、痛いというこの感覚こそ、先程二人に言われた言葉をはっきりと脳に焼き付けて焦がす油のようだった。
物に当たる癖がみっともないと分かってる。でも奥から燃え上がるようなこの気持ちはそう考える気持ちまでも燃やしてしまう。白い灰となるための怒りのやり場が欲しかった。


『凄い音がしたけど。』

あまりのタイミングに舌打ちをする。
何か言葉を出せば止まらないかもしれないとわずかに残った冷静が声を奪う。
私の言葉を待っているのか、何を考えているのか、彼女はそれ以上何も言わない。
が、いきなりずんずんと私の方へ近付いてくる。
近付く度に自分に気持ちの余裕が奪われてくのを感じて彼女を睨み付けたが、彼女は怯まなかった。

『なぜかしら。』

沈黙を破った彼女の一言は遠回しすることなく清々しい程ストレートだった。
彼女は指で私の頬に触れて私の目を捕らえた。

『私は風介が必要なのに父さんはちっとも分かってくれない。』

それはお前は私達と違うからだ。
声は空気を振動させなかったが、聡い彼女には何と言ったのか分かったらしかった。
その彼女の短い息遣いを感じた途端、喉の奥が一気に開放されて息を吸い込み、吐き出した。

「私は要らないんだ。父さんが要らないと言えば誰も要らない。父さんが決めたことがお前達の決定、私は要らないから消えるんだ。お前は消えないんだろ、そこで私がただの屑になるのを見られる、良かったじゃないか。」

ダイヤモンドダストのように自然に、ひとりでに、綺麗には消えられない、きっとそれは滑稽な屑になる。
そう付け加えると今度は彼女が両腕を私の首に回して違うと言う。
自分の空いている腕は自然と彼女の背に回されていた。
昔から癇癪持ちの私を包んでくれた細い骨は未だに力を入れたら折れそうな気がして憎たらしい。

『私は父さんに逆らう。』
「私は今更どうにもならないさ、無謀だな。」
『うん、だからね、そうじゃなくて、お前は残りなさいってやつ。私は残らないことに決めた。』
「じゃあどうするんだい」
『風介と同じところに。』

私も屑になる、だからお父様がガゼルを屑にする時まで私は離れない。
だから風介も離さないで。

そう言って彼女は本当に動かなかった。困った。
彼女の腕をトントン、と叩いてみたがやはり動かない。
私の現在と彼女の未来をしっかりと繋いで。


「お前、物好きだな。」
『だって好きだもん。』

人は好きと言うだけで何故こんなにも他人に必死になれるんだろう。
ドラマでも小説でも漫画でも。どれも見聞きしてもずっと理解のできない心情だった。
彼女が風介は?ときいてくる。

「きっとおなじ、だと思う。」
『なにそれーずるい。』
「断言していいのかよく分からない。」

彼女はずっと首もとに埋めていた顔を上げると風介の初恋もーらい、と笑った。
断言してないんだけどな。
くすぐったくて顔を背けると頬にリップ音が鳴ったから仕返しに腕に噛み付いてやった。

きっともう離れることはない歯形がついたこの彼女の腕は確かに小っ恥ずかしい愛しさを感じた。

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