お題

□幼さ故の約束
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火影邸。
人がほとんどいない奥の部屋から微かに子供の声が聞こえる。
声色からして、まだ5歳くらいだろうか。

この子供が火影邸にいることを知るのは、極一部の人間のみ。


「ナルト!ねぇ、ナルトってば!」

「んだよ千夜、うるせぇぞ」

「あ、そんなとこにいたの?もう、いるなら返事くらいしてよ」


千夜はぷくー、と頬を膨らませる。
その様は子供らしいが、物言いは年のわりにはっきりしていて、舌足らずではない。
対するナルトも同じくだ。

同年代の子供よりも達者な言葉遣いは些か浮き世離れしている。


「悪かったって。…で、何だよ」

「あのね、影分身の術教えて!」


この間できるようになったってナルト言ってたでしょ?
にこやかに話す千夜に、ナルトの瞳が僅かに細くなる。
しかし、教えてもらう交渉に気を取られている千夜は変化に気づかない。

一つため息を零し、ナルトは静かに口を開いた。


「絶対教えねぇ」

「なんで!?確かに禁術だけど、ナルトはやったのに……!」

「いくらお前でもチャクラがまだ足りねぇよ」

「そ、それでも印くらい教えてくれ…」

「―――俺が守る」


チャクラが足りない。
そんなことくらい千夜だって分かっている。
でも、せめて印くらいは覚えたいのだ。

その気持ちを言おうとした彼女のところで、それを遮る形でナルトが声を被せる。


「お前が禁術を使わなくていいように俺が守る」


そう言って真っ直ぐこちらを見るナルトの瞳は真剣な色で、5歳の子供がするものとは掛け離れている。
普段見ることのない様子に千夜の心臓が鼓動を早くした。

彼女は知らない。
こんな目をする、空気を持つナルトは知らない。
不安か嬉しさかも分からないほどに感情がごちゃごちゃしている。
彼の綺麗な青い瞳に映る千夜は眉を下げて不安そうだ。


…狡い。そんな顔するなんて、狡いよ。

だってどうすればいいか分からない。
何で急にそんな……!


混乱してきた頭では分かるはずのことも分からなくて、視界が歪む。
それでもどこか客観的に見ている自分がいて、彼女が思考の片隅で苦笑いをしている。

ああ、泣きたいわけじゃないのに。
勝手に涙が浮かぶ。
何をすればいいか言えばいいか分からないそんな状況でも、体は無意識に頷くことを選択した。


「何があっても、守るから」


こくりと頷く彼女。
そんな千夜を見て真剣な表情を崩し、頬を緩める。

納得していないのは百も承知だ。
でも、この言葉は嘘ではない。
口先だけの軽い言葉でもない。

決意を改めて心に刻むために、ナルトは再び音に乗せて言の葉を紡いだ。







「…覚えてるのかな、あの約束」


ふと思い出した、約束。
彼がどういう意味で言ってくれたのか。

友達として?
それとも―――。

つい都合が良い方へ考えてしまう。
彼も同じように思ってくれればいいのに、なんて。

覚えてるわけ、ないよね。
千夜の悲しそうな呟きは夜空へと消えていった。



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