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□この扉を開くにはあと少しの勇気が必要。(犬猿)
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あれから一年が過ぎた。
あれから、365日が過ぎた。
つまり、365日、猿と会っていない。
あの日までは、365日、ときには366日欠かさず言い争いをしていたというのに。
一年前の今日、俺たちは十二支高校を卒業した。三年間過ごした校舎に別れを告げ、俺と猿、ふたりで春に変わりつつある日差しの中を歩く。どうして俺たちが二人きりで帰ることになったのか、そのいきさつはどうも覚えていない。ただ、そのことで例のごとく口喧嘩が勃発したことは鮮明に思い出せる。
俺ははっきりいって、それ以降もう会うことはない、などとは考えていなかった。猿がうるさいのも、突拍子もなく始まる喧嘩も、全部が当たり前の日常で、たとえば飯を食えば必ず歯を磨くように、俺の生活の中から消えてなくなるなどとは考えられなかったのだ。
「またな、犬っころ!」
別れ際、猿の顔が少しゆがんだ。猿には分かっていたのかもしれない。
でも、俺には分からなかった。不器用な俺には、別れに気づかないふりをするのが精一杯だった。
「・・・・・・とりあえず、次会うときはもう少しマシな面になってることを望むぜ」
そういって別れた桜の木の下。花開くには、まだ早い。
俺はところで、今猿のうちの前を通るところだ。正確には、猿の家兼酒屋。近所の本屋で売り切れていた本を探し求めてこの辺まできたので、ついでにここまできてみた。それだけだ。
ここへは、一度だけきたことがある。
と言っても、兎丸、司馬、明神、野木、それから辰もいたから、どうせあいつは俺が混じっていたことなんて覚えちゃいないだろう。だから、見つかっても大丈夫だ。
俺は前方にある店に目をやった。歩く速度を弛める。でも、まだ止まらない。
猿は果たしてあの中にいるだろうか。いたら、俺はなんて言うだろう?
それとも、休みの日だ、新しい友達とどこかに遊びにでてしまってるだろうか?・・・・・・新しい友達、と。
店の前にやってきた。さらに足を遅くする。が、まだ止まらない。
まだ、止まらない。
まだ・・・・・・・・・。
「あ・・・・・・・」
しまった。まただ。
また、行き過ぎてしまった。
俺は後ろに遠ざかっていく猿の家を見やり、小さく舌打ちをした。
なにをそうためらっている?たかが猿の住処にやってきただけだろ?自分に問いかけてみるけど、もう戻る気にはならない。俺は前を向くと、歩調を整えた。
どうやら、一年も経ったというのに、俺にはまだ覚悟が足りないらしい。
次に通りかかった時には、きっとあの扉を開けてやろうと思った。