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□日だまり(犬柿)
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眠たい眠たい午後の授業。

 窓側はぽかぽかして、最高に気持ちいい。自分の腕を枕にして、窓の外を眺める。そよそよ爽やかに吹く風と、それに揺れる木々の動きが、ゆらゆらさらなる眠気を誘う。

 ・・・・・・・寝ちゃおっかな………。

視界がなくなりかけたとき、その隅に見慣れた人影がうつった。

「あ……れっ?」

 あれ、柿ピーだ。







「柿ピー!」

 どっすーん、とぶつかって抱きつ・・・・・・こうとしたところを、ひょいと交わされて前へつんのめる。勢いよく飛び込んだので、つんのめっただけでは飽き足らず、顔面衝突だけは間一髪で避けて、尻餅をつく。

「酷い、柿ピー」

 膨れっ面してみせたら、右手を出してくれた。

「だって、来るの分かってたもん」

 俺はその手を掴んで立ち上がる。

 それにしたって、避けなくてもいいのにー。ぶつぶつ言いながら土を払うと、柿ピーはすたすたと歩き始めた。その薄い背中を追いかけながら、考える。

 柿ピーには、スキがない。

 これでも俺は足音を忍ばせたし、気配を感じ取るよりも速く柿ピーのもとへ辿り着いたはずだった。

 それなのに、柿ピーは軽々と避けて見せて。

 こんな、いかにも平和なときでもぴりぴりガードを張り巡らしてる様子は、やっぱりプロの殺し屋なんだと思う。だって、食うか食われるか、生きるか死ぬかの世界に今まで生きてきたんだから。それは、生き残るための能力。自分を、そして骸さんを守るために培ってきた柿ピーの力。絶対、緩むことなんかないんだろーな。

 むう。

 俺は柿ピーに向かって口をとがらしてみる。

 俺にくらい、無防備な姿、見せてよー!

 あかんべをしてから、大きくジャンプする。それは欲求不満のもやもやを晴らすため。

「犬、目立つ」

 柿ピーが、もう一度高く高く跳ぼうとした俺のシャツをつかんだ。

「柿ピー、いっのかなー?授業サボッたりしてー」

 俺はにやにやと柿ピーの顔を覗き込む。

「体育とかめんどい」

 柿ピーは、無表情で答える。でたよ、柿ピーの十八番。めんどい。

「そう言う犬はどうなの?数学やってたじゃん」

「頭痛って言って抜けて来たんらびょん。あの窓から、柿ピーが見えたからね」

 俺はそう言ってさっきまで俺がいた教室を指さす。教室の中にはマジメに授業を受ける数十人の生徒が見えた。

「・・・・・・ねえ、なんれ数学って知ってんの?」

 俺と柿ピーの間をそよそよと風が抜ける。俺はそのそよそよに乗せて、そう聞いてみた。柿ピーは、しばらく黙り込む。

「………廊下の窓から見えた。それで誘うの止めた………から」

 やっとそう言うと、柿ピーは、ふっと顔をそらした。急いでその顔を覗き込んだら、もういつもの冷静な表情を取り戻してる。でも………。

 耳が赤い。

「誘ってくれてよかったのにー!!ね、ね、今度はぜーったい誘えよ?」

「やだ」

「なんれ!ひとりれサボッたら怒るから!誘って!」

「やーだー」

「じゃあついてく!勝手についてくからね!」

「もう、犬うるさいよ」

 いつの間にか、俺たちは学校の敷地内の外れに来ていた。通る人もいないような場所。初めて目にしたそこは、手入れもされず木や草が密生している。そんな中で、柿ピーは急に立ち止まった。
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