飛び込んできた冷たい体を軽々と抱き止めて。一角は懐から出した手拭いで乱菊の濡れた頬を優しく拭った。

「…何があったんだ?」
「…………」
無言で胸に顔を押し付ける乱菊を突き放すでなく、落ち着くまで好きにさせる。

話したかったら話す。話したくなかったら永遠に黙りを決め込む。彼女の奔放な気性を知っている一角は深くは追及しない。


だから居心地が良いのだ。体を重ねても心まで欲しがらない一角。包容力があって、恐持ての顔からは想像できない優しさを見せるから。ヒドイ女とは自覚しつつ、どうしようもなく心が渇いた時に逃げ込むのだ。


「風邪ひくぞ…帰れよ」
「嫌」
「嫌?わがまま言うなよ…飲みに行くか?」
「嫌」
「嫌だあ?」
「……いて」
「は?」
「抱いて」

何も考えられなくして。
隊長の事なんて気のせいだと思わせて。
忘れさせて。


蒼の瞳から零れる涙を見たら一角はなす術などない。乱菊の願いを聞く以外は。



「一…角もっと」

いつもより欲しがり絡み付く中に。一角は持って行かれそうになり焦る。

「っ…く」

何度、乱菊の中で果てたか分からない。いい加減一角の方が根を上げそうになる。

こんなに激しく乱れる乱菊も珍しい。
脳裏に一人の男が浮かぶ。銀髪に翠の瞳の男。形は小さくても姿形通りの子供ではない。眼光一つで自分より大きな男を黙らせる男だ。
乱菊が恋い焦がれ心酔する唯一無二の男。彼女は隠しているつもりなのだろうが、一角は薄々気が付いていた。

「…っく」


あんたは行動一つで、視線一つでこいつを乱れさせるんですね。

無性に悔しい。
乱菊のこの狂態ぶりは恐らくは日番谷のためだろう。

悔しさを切なさを乱菊の体に叩き込む。
八つ当たりと知りつつ止まらない。

乱菊は激しさを増した突き上げに乱れ、喘ぎ、鮮やかに散る。

一時の幸せと知りながら。







「斑目?」
「今、帰りですか?」
十番隊舎前で日番谷と鉢合わせる。タイミングの悪さに一角な舌打ちをした。

「松本と飲んだのか?」
「ええ」
「まったくあいつは」
すれ違い様。

「松本が世話になった…みてえだな」

低められる声にドキリとする。気が付かれたかもしれない。
自分は良いが松本が……。


一角は隊舎に消える日番谷の背中を見送る事しかできなかった。






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