隊長の副官になって、幾つの季節が巡ったのだろう。

出会いは鮮明で。
昨日の事の様に思い出せる。

小さくて華奢な体。
初めは、あたしが死神としても先輩なんだし、年上だから。そんな下らない理由で、守ろうとして。
隊長のプライドを傷付けた様に思う。
あたしは年下の上司の扱いに戸惑い、一時すごく思い悩んだ。
隊長との距離をどう取ったら良いのか?

幼なじみの市丸とも、同士の一角とも、後輩の修兵とも立場の違う男。

そう、男…なのだ。

子供扱いをするには、失礼なほどの懐の深さと、護廷の隊長を任されるほどの力と知性と品格を持ち合わせていて。

あたしがそんなだから、隊長と息が合わずに強引に力業で虚を滅却させて。盛大なため息を誘った。

ため息と眉間の皺は、隊長の癖。
それを知らないあたしは戸惑い。
悪循環にハマる。


「…松本」
「何でしょうか?」

隊長の華奢な首筋を見詰めて、戸惑いながら返事をする。


「お前、俺との距離、測りかねてるだろ?」
「え?」
「まあ、こんな形だ。頼りにならねえか?」
自嘲気味に笑う表情が痛くて。
ツキン
と、胸が痛む。

「そんな!隊長の能力を一度も疑った事はありません!戦術も戦眼も護廷でもトップクラスの実力だと、思います」
日々、その背中を見詰めて居た乱菊だから分かる事。

「そりゃ、奇遇だな」
「え?」
「そっくりそのまんま、俺がお前を見て感じた事だよ」

淡々と告げるから。
思わず聞き逃しそうになったけれど、

それって

どんな殺し文句より効果てきめん。
嬉しくて
恥ずかしくて

カァー

と、体温が上昇する。隊長は、そんなアワアワなあたしを楽しそうに見詰めて。

「今は…声が届く距離……それで良いじゃねえか」
「え……?」

「お前は俺が守るから……その変わりに…俺の背後を頼めるか?」
真摯な翠の光に

ああ、この人は本気で言ってくれているのだ…そう思えて。


今までの目に見えない壁が

ガシャン

と。

音を立てて壊れた瞬間……だった。

「………隊長…案外女の扱いに慣れてますね?」
「はあ?何言ってんだお前は?」
「言葉の通りです〜」
「返事は」
「…はい。お願い致します」




「声が届く距離…」

「何か言ったか?」

前を歩く隊長が怪訝な顔で振り返る。

「何でもないです〜」
「変なやつだな」

「良く言われます。隊長に」

「…………」

今はまだ。
それで良い。

己の心を誤魔化すように笑い。
その背中を追い掛ける。






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