「痕さえ残らないんだな」

傍らで眠る少年の裸の胸を撫で上げて、クロスは苦い煙草を揉み消した。
艶やかな黒髪に指を絡めて、小さなキスを落とす。

先程まで執着していたしなやかな躰は、傷一つ無く、吸い上げたうっ血の跡一つない。

どれ程酷く抱いても、どれ程優しく抱いても綺麗な綺麗な躰。

神田の特殊な力によるものだとしても


抱かれてもあんたのモノにはならない
あげるのは躰だけ


そう、言われている様な気がして。胸苦しさを覚える。


「こんなガキに」


しかも胸もねぇ野郎相手に欲情する、救い様のないバカに成り下がっていた。
こいつと知り合う前ならバカな野郎を鼻で笑ったハズだ。

しかし、今は
抱いた印しが残らぬと苛ついて、
ならばせめてと
互いの欲でドロドロに濡れた神田を放置して。


己を宥めていた。


プライドの高いこの坊やは、大きな瞳で睨み付けるが、それさえも可愛いと思うのだからもう手遅れなのだろう。

少年が目覚める気配は……ない。


「後で清めるか…」


意識のない相手を風呂に入れてもつまらない。エロ親父と罵られても譲れない線だ。
ドアを叩く音がする。
「ちょっといいですか?師匠!」
返答も聞かずにアレンが顔を覗かせて、入って来た。
そのバカ弟子に盛大なデコピンをお見舞いする。

「って〜」
「お前はウルサイ」

「っ…な!かっかっか…神田!」

クロスのベッド一糸纏わず眠る神田と、不適に笑う己が師匠を交互に見比べて。
アレンはゆでダコの様に赤くなった。

クロスは、神田の姿を背中て隠す。アレンにとて見せたくない悩ましい姿だ。


「おら、バカ弟子。分かったらさっさと出て行け」
「はっは…はい…あの」
「何だよ?」
「…背中」
「背中だぁ?」
「…爪痕、すごいですよ。……神田って以外に執着するタイプなんですね」
「………」
赤面から立ち直り。ジロジロ不躾な視線を投げ掛けるバカ弟子を叩き出して。
しっかりと施錠する。

執着するタイプ


鏡に背中を写して見る。背中に散らばる爪痕。
日本人気質なのか声を抑えがちな神田は、快感を訴える時クロスの背中を引っ掻く癖があった。
仕草が可愛くて、好きにさせていたのだが。

執着…
なのか?


お前が…
俺に?
眠る神田の頭をクシャリと撫で上げて。
そっと抱き上げる。

サラリと舞う黒髪。

今日くらいはサッパリ目覚めさせてやるよ。
瞼に口付けを落として、バスルームに向かう。


アレンの言葉で気分が浮上するとは。


救い様がないほど、この綺麗な子供に溺れているらしい。


まあ、
でも、
気分は悪くない。


二人はバスルームに消えた。






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