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□★花を摘む(頂き物)
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薄暗い部屋。緊縛の苦痛にあなたの顔は歪む。
今にも肩が外れそうでしょう? そのように縛りました。
裸の上半身には赤い荒縄。両腕は背中で小手高に固定。その状態で、仰向けに寝かされたあなたの鎖骨辺りを、ヒールの高いブーツで容赦なく踏みつける。
苦しいでしょう?
あなたは、やめて、と言いたげですね。涙を湛える水色の瞳がとても綺麗。その猿轡がなかったら、大声で助けを求めていたでしょうか。
やめてあげませんよ。かつて、わたしはあなたにたっぷりと「可愛がられ」ました。あなたは長らく忘れていたようですが、わたしはひと時だって忘れたことはなかった。だから、これからはわたしがあなたを愛でることにします。




心から美しくあれと教えられてきました。
けれど、ただ一点だけ、醜く汚らしい傷跡を抱えました。おわかりですね? あなたとの思い出ですよ。
あなたと再会したあの時、長らく抑え込んできたそれがついに決壊し、熱い膿が溢れ出してきたのです。








八才の誕生日をむかえた少しあと。
ぼくは、カントー地方からホウエン地方に引っ越してきました。親戚のアダンさまのもとで修業をするためです。けれど、何事も基礎を知らなければどうしようもないので、まずは一年間、カナズミシティのスクールに通うことになりました。新しい保護者になるアダンさまも、「どうせルネシティジムへ挑戦できるトレーナーはめったにいないのですし」と、一緒にカナズミへお引越しです。
転校初日。月曜日でした。ぼくは担任の先生に連れられて、新しいクラスに足を踏み入れます。
ざわ、と、空気が揺れました。

「転校生だ」「この時期に? いま五月だよ」「あの子可愛い」「え、男の子でしょ?」

先生に黒板に名前を書いてもらって、ぼくは自己紹介をします。さりげなく自分が男であると強調すると、また教室がざわめきました。
ぼくは教室を見渡します。人数は四十人くらいで、カントーのスクールと比べて生徒の数が少ないように思えました。窓際の列の、一番後ろの席と二番目に後ろの席が空席でした。先生は、後ろから二番目の席の方を指して、あれがあなたの席よと言いました。
ホームルームが終わると、新しいクラスメイトたちがぼくの席のまわりにあつまってきました。どこからきたの? もう八才になった? ペットにしているポケモンはいる? それはもう、質問責めです。
ひとつひとつに丁寧に答えていると、すぐに一時間目になりました。スクールのカリキュラムは全国共通なので、前のスクールで使っていた教科書が使えます。
クラスのみんなは、すぐに静かになって、授業に集中しはじめました。真面目なクラスのようで、安心しました。
授業がはじまって三十分くらいたったころ。突然、教室の後ろのドアが開きました。

「おはようございます」

身なりがよくて、とても小柄な、水色の髪の男の子が入って来ました。とても綺麗な子でした。
一人のクラスメイトが、男の子に話しかけます。

「あれ、ダイゴ。忌引きは?」

「もう明けたよ」

きびき、という言葉の意味を、このときのぼくは知りませんでした。
男の子は、ぼくの席の真後ろに向かってきて――びっくりしたように、ぼくの顔を見つめてきました。水色の瞳が、ぼくを穴が開きそうなくらい見ています。

「……転校生?」

ちいさな声で、男の子は聞いてきました。
ぼくは、はいと答えました。男の子は、そうなの、とだけ呟いて、ぼくのうしろの席にすわりました。
それが、ダイゴとの出会いでした。








わたしがあなたを蹴飛ばすと、身体の自由がきかないあなたは簡単に床に転がった。
胸板や顔に、赤黒い鬱血。キスマークではない。踏みにじり、蹴り飛ばした跡だ。
痛みに震えるあなたは、なんと美しい。あれほど残酷に歪んだ性根を持ちながら、なぜそんなにも美しくいられるのです?
……調教してしまいましょうね。
わたしは膝をつき、あなたのスラックスに手をかけた。
途端。半ば無抵抗だったあなたが、激しくもがき始めた。猿轡の隙間から、けもののような声を出す。戒められていない足が暴れだし、靴の先が、わたしの服の裾を掠った。
わたしの中で怒りが鮮やかに燃え上がる。

「おとなしくなさいっ!」

馬乗りになって、あなたの頬を殴りつけた。
生まれて初めて拳で人を叩いた。確かな手ごたえ。あなたの顔が横を向く。
ああ。
あなたはなんと美しい。








転校して何日か過ぎました。
ぼくは、名札をなくしてしまいました。バトルレッスンの時間の前に着替える時、たしかに着替え袋の中にしまったはずなのに。
アダンさまに自分の不注意をあやまって、新しい名札を買ってもらいました。アダンさまは怒らなかったけれど、ぼくは心苦しく思いました。もう持ち物をなくすまい、と決めました。
けれど、ぼくはすぐに次の持ち物をなくしたのです。なくしたのはメモ帳セットで、メモ帳と付箋と小さなペンが、ビニールのケースに入っている文房具です。シンオウ地方のお土産で、全部にネオラントのイラストが入った、ぼくお気に入りの品でした。
このメモ帳セットは、机の上に出しておいたままお手洗いに行き、帰ってきたらなくなっていました。
ぼくは鞄の中や机の中をすみずみまで探しました。見つかりませんでした。クラスメイトの一人に「メモ帳セットを見ませんでしたか?」と聞くと、知らない、という答えが返って来ました。そのクラスメイトは、ぼくの目を見ませんでした。
クラスを見回すと、なぜか、みんながぼくから目をそらしました。ただ一人、ダイゴがにこにことぼくを見ていました。
ぼくがメモ帳セットをあきらめると、ダイゴはすこし不機嫌になりました。
それを機に、クラスメイトが少しずつぼくに話しかけなくなりました。もともと、ぼくは子供といるより大人といるほうが落ち着く変わり者だったので、特に気にしませんでした。
気にするべきは、持ち物が次々となくなっていくことでした。ハンカチが消えました。消しゴムが消えました。下敷きが消えました。教科書がなくなったときは、どうしようかと途方にくれました。これでは授業を受けられません。

「一緒に見よ」

そう言ったのは、後ろの席のダイゴでした。席が前後ではどちらも読みづらいのでは、と言うと、なんとダイゴは、うしろからぼくを抱きしめるような体勢で、無理やり教科書を一緒に見たのです。一時間、ずっと中腰になっていたダイゴを、クラスメイトはおろか、先生ですらも注意しませんでした。
一時間、ぼくの顔の横にダイゴの顔がありました。ときどき、耳に吐息がかかりました。しかも、ダイゴは時々、「ミクリ、いー匂いだね」などと耳打ちしてきます。
ぼくはなんだかはずかしくて、授業に集中できませんでした。
授業がおわる間際、ぼくは気がつきました。ダイゴの教科書に、ネオラントの付箋が貼ってあることに。
疑惑が、胸の内におこりました。
そんなぼくが、ダイゴと他のクラスメイトとの会話を盗み聞きしたのは、さらに数日後のことです。








大人しくなったので全裸に剥いて床に転がした。
あなたの嗚咽が薄暗がりに響く。泣いてどうするんですか?
わたしは、あらかじめ用意してあったローションのボトルを開封し、自分の手をたっぷり濡らした。そしてあなたの足をM字に開き、閉じたつぼみに指を突き刺した。

「……ッ!!」

あなたの目が虚空に向けて見開かれる。
構わず、蕾を内側から突き崩すように指を回すと、そのたび、あなたの顔は変化した。苦痛苦痛快楽苦痛苦痛快楽苦痛快楽快楽快楽苦痛。そして屈辱。
ふと見ると、股間のものが反応している。先端から涙を流すそれを空いている方の手で触れて、わたしはあなたを嘲笑う。

「淫乱」

がり。猿轡を噛む音がした。
わたしは指を引き抜く。あなたはあからさまに安堵した。涙にまみれたそのかんばせ、すぐに絶望へ塗り替えて差し上げる。
さて、わたしのものは、とうに興奮して硬くなり、充分凶器と化していた。
それを使い、一息に、あなたの蕾を貫いた。
声にならない悲鳴が、高く高く――。

「処女喪失ですね。おめでとうございます」

冗談めかして告げるとあなたはまた泣いた。
揺さぶる。激痛がするのだろう。あなたは全身をこわばらせ、顔をこれ以上ないくらい歪ませる。
馴らす時だけとはいえ快楽を与えたこと、感謝なさい?
わたしは、しばし腰の動きを止め、あなたに覆いかぶさる。
あなたの耳にわたしの吐息。あの時のオマージュですよ、忘れていると思いますが。

「……わたしは、あなたを忘れたことなど一度もなかった」

もちろん、憎むべき存在としてね。
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