Long

□扉
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子供にあるまじき睡眠不足の朝、少年を起こしたのは優しい母親の手でも何でもなかった。
「ほらダイゴ、朝ごはんできてますよ!早く起きなさい」
寝癖でぼさぼさの頭を布団に埋め、ダイゴが猫のように唸る。柔らかな羽毛布団は既に抱き枕へと姿を変え、両腕の間に収まっていた。
「んん、あと五分……」
ぐずる少年を呆れた目で見下ろし、ミクリは溜息をついた。子供用のエプロンが、妙に似合っている。幸せそうな顔で眠りこけるダイゴに痺れを切らせた彼は、矢庭に両手を突き出すと、抱えられた布団を力任せに引っ張った。勢いよく放られた布団に引き摺られ、ダイゴがベッドから転げ落ちる。カーペットの床へ強かに頭を打ちつけた彼は、そこでようやく目を覚ました。
「落とすことないじゃない!」
ほんの数秒前まで寝惚けていたくせに、起きたら起きたで早速噛み付いてくる。煩そうに耳を塞いだミクリは、ベッドサイドに畳んであったダイゴの服を強引に顔へ押し付けた。
「ダイゴが勝手についてきたんじゃないか。僕は布団を引っ張ったんだよ」
顔面に布の直撃を食らったダイゴは、声にならない声で何かを喚いている。恐らく、苦しいとでも言っているのだろう。
ミクリが手を放したことで、彼のシャツは膝の上にやんわりと着地する。酸欠で顔を真っ赤にしたダイゴは、恨めしげな目で目の前の少年を睨んだ。対するミクリは、そんな視線など鼻にも引っ掛けず涼しい顔である。
「今日はサイユウシティへ向かうんだろう。いつまでも燻ってないでさっさと支度を整えてくれよ」
むくれたままの少年を放置し、無情にも部屋の扉が閉められる。ドアの前に佇んだミクリは、戸板の向こうでしぶしぶ服を着替え始める音を聞きつけると、小さく笑って階下へ下りて行った。
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