Long

□再会
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トクサネジムリーダーの老夫婦を倒し、ダイゴのジム戦もとうとう残すところあと一つとなった。
ポケモンの背で波に乗りながら、少年はポケナビで地図のある一点をじっと見つめ続けている。視線の先にあるのは、次の目的地でもあるルネシティを示す灯火だ。
先日訪れたトクサネシティでは、彼の予感を裏付けるような出来事は何一つ起こらなかった。伸び伸びと育ったマングローブの樹に囲まれ、長閑な数日間を過ごしただけである。
恐れていたジム戦も何のことはなく、気付いたときにはバッジと餞別の技マシンを手に、海を臨む岬で立ち竦んでいた。正直、戦っているときは無我夢中で、一体何を考えていたのかさえ覚えてはいない。
フエンタウンで倒れて以来、ずっと胸に付き纏っている不安。杞憂であろうと思いながらも、確信は何一つなかった。
水平線の向こうに、ルネシティを取り囲む白い山肌が姿を現す。ダイゴが実際にルネへ足を運ぶのは、これが初めてのことであった。噂には聞いていたが、本当に美しい景色だ。一枚絵として飾り置きたくなる。
春を待ち望む陽光の下、そこだけまるで別世界のように白銀で覆われていた。雪ではないと知っていながら、そう錯覚してしまいそうになる。
深い海溝は海を藍に染め、山の白とのコントラストははっとするほどに鮮やかで。こんな綺麗な景色の中で育ってきたからこそ、件の少年はあんなにも美しさへの執着が強いのか、などと、ダイゴはぼんやりと思った。
ルネの入り口は海底にある。潜るか、もしくは上空からでないと入ることのできない、閉鎖の街だ。
どう考えても不便なのであるが、何故そんなしち面倒くさい場所にゲートを拵えたのかといえば、それには深い事情があった。
興味本位で聞いた話によると、何でもルネは元々こんな火口にある街ではなかったらしい。想像もつかない程昔、超古代ポケモン同士の衝突により、本当のルネシティは海の底へ沈んでしまったのだそうだ。
生き残った人々が、彼らの厄災から逃れるために作り出したのが、今のルネシティである。死火山であるルネの高い山々に囲まれた火口は、自然のバリケードに守られた土地であった。
暴れ狂う超古代ポケモンの手が届かぬよう、敢えて街は閉ざされたままにした。そしてポケモンたちが眠りに落ちた暁には、このバリケードは外敵を弾く壁から姿を変え、彼らを封印する檻となったのである。
そんな伝承の残る都市であるからこそ、景色には一種の神秘性も加わり、一層美しく映える。ダイゴは次第に近付いてくる白壁の山嶺を見上げ、すっと目を細めた。

 
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