Long

□君の見上げた空-sideD-
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南の方に位置しているとはいえ、ホウエン地方も冬は寒い。
地上の気温は氷点下二度。こういう日は空を飛ぶのに向いていないことを、ボクはよく知っていた。
「すみません、フエン行きのロープウェイは運行していますか?」
一帯を火山が占めるこの地域は、冬場になると雪が積もっていることが多い。そんなときは危険回避のため、山頂へ向かうロープウェイも運休を取ることがある。
受け付けの女性に運行状態を尋ねると、幸運にも今日は普段通りに営業しているようだ。
改札口でフリーパスを見せ、誰もいない箱へ乗り込む。他に客はいないらしく、ロープウェイはすぐに動き出した。
不安定に揺れる椅子へ腰掛け、ボクは防寒のために着込んでいたジャケットを脱いだ。襟には、これまでに回ったジムで手に入れたバッジが留めてある。
先日手に入れたヒワマキのバッジを含めると、全部で六つ。ボクのジム戦も、残るところあと二つだ。
もう目鼻の先に見えているポケモンリーグのことを考えると、自然身が引き締まった。
残すジムはトクサネとルネの二箇所。ホウエンジムの中でも、特にレベルが高いと言われている。
(大丈夫、ボクはちゃんとポケモンを育ててきた。ジム戦の対策だって練ってある。万全の状態で戦えば、負けるはずはない。万全の状態でさえ……あれば……)
膝の上で、自分の手が震えていることに気付いた。これは武者震いだろうか。拳を握っても、震顫は止まらない。
チクリと痛んだ胸に、何だか嫌な予感がした。

 
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