NOVEL
□世界で一番、愛してる
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するりと潜り込んだダブルベッドには、熟睡中の先客が居た。
―帰る。少し休ませてくれ
そう言ってユフィを残しWROから早々に帰宅したこの男は、前言していたとおり真っ直ぐにベッドに向かい即行で眠りに就いたらしい。
ユフィがバレットにヤキを入れ終わって帰ってきたのは、ヴィンセントが去ってから三時間ほど後。
もうすぐ日付が変わろうという時間だった。
誰よりも気配に敏感なヴィンセントが、自分の眠っているベッドに人が入り込んだにも拘らず穏やかな表情のまま眠り続けている。
(昔じゃ考えられなかったよなぁ)
体ごとヴィンセントの方を向いて、自分の近くにまで届く彼の長い髪の先の方を、引っ張らないようにくるくると指に絡めた。
ふと、先ほどの光景が思い出される。
自分以外の女に、自分にするように触れ
自分を見るような視線を送り
自分に語りかけるような声で囁き
自分にするようにキスしようと・・・
・・・シェルクに。
あの人の欠片が残っている、あのシェルクに。
そこまで考えて大きくかぶりを振る。
今日のことは、ヴィンセントに非が無いことくらいわかってる。
それでも特別室のソファで寄り添い合う二人のシルエットを思い出しただけで、言いようの無い黒いドロドロがユフィを支配した。
すうすうと暢気に繰り返される規則正しい寝息を無性に崩してやりたくなって、彼の頭の両側に手を着き、何の前触れもなくヴィンセントの唇を塞いだ。
「ふ・・・む、んん・・・ユフィ?」
うっすらと開いた瞼の隙間から熱を帯びた紅が覗く。
構わず強引に舌を挿し入れると、少し驚いたように紅い瞳がが揺らいだが、すぐにそれに応えるようにヴィンセントの舌が絡みついてきた。
静まり返った寝室に、唾液が絡まりあう小さな音だけが響く。
ひとしきり口腔内を蹂躙し、ゆっくりとユフィが唇を離すと、名残惜しそうに銀色の糸が残り、消えた。
「随分攻撃的だな」
見透かしたような赤い瞳が、真っ直ぐにユフィを貫いた。
それに反抗するように黒い瞳がヴィンセントを刺す。
「どうした?ユフィ」
のそりと上半身を起こして小首をかしげながら問いかけるその表情は余裕はたっぷり。
―――わかってて聞いてるんだ
「あんたはアタシのもんなんだよ」
強くも弱くも無い口調で吐き出した言葉は、本人さえも予想外なくらいに震えていた。
「んっ――っっ」
ユフィの言葉が終わるか終わらないかのタイミングを見計らって、ヴィンセントの唇がユフィのそれを覆う。
「絶対誰にも・・・んっ・・・渡さな・・・い」
舌は入れずに啄ばむようなキス。
言葉を紡ぐユフィの唇を容赦なく翻弄する。
「・・・ムカ・・・んっむ・・つく」
「なぜ」
返事も手短にすぐさままたその小さな唇にキスの雨を降らす。
「っんん・・・アタシばっかり必死で、んぁっ・・・アタシばっか
り好きで・・・いつも余裕で・・・」
―――ぴく
ユフィが喋り終えるのと、自分の唇から離れたヴィンセントの瞳とかち合うのとはほぼ同時だった。