野兎の空想  長いの。

□宵闇の衣のアリス
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昔々、混沌から生まれおちた神様がいました。

神様はずっとひとりで、この上なく孤独でした。

なので、彼は自らの孤独を癒そうと、ひとつの祝福された楽園をその手で作り出し、偶然という名の必然を積み重ねて自分とよく似た生き物を作りました。

神は結果に喜びましたが、ある時、自分が決定的なミスを犯したことに気付きました。

その生き物の意志は強く、一つ一つの命が、魂と呼ぶべき部分を100年足らずで進化させてしまったのです。

これは、さしもの神も予想外でした。

たくさんの、幸福や絶望、恨み、妬み、希望、愛という名の強い感情が生まれました。

そして、そのような身を破滅させるほどの感情をつくりだす魂は消滅することはなく、生前の激情に従ってその楽園に留まりました。

その楽園はあっという間に、意志という名の霊魂で溢れかえりました。

溢れた霊魂を消さなければ、楽園そのものが崩壊してしまう。

しかし実体はなくても、自分自身を水面に映したような生き物を消してしまいたくはない。

神様は悩んだ末に、ほかの世界にも楽園を作り、それらの霊魂を呼び寄せて新たに体を与えました。

そして、そこで死したその生き物はまた別人としてほかの世界の楽園に生まれおちるのです。

魂の循環。いのちの輪廻。

しかし、そうわかっていても次の世界には行きたがらず、悲しいくらいその世界に執着する者もいました。

神様は思いました。

では、私の退屈を紛らわすのと引き換えに、ほんのいくらかの霊魂は死をなかったことにして元の世界に戻してやろう。

神様は、ゲームを考えました。

生と死が交差するゲーム。

そして、また今日も、素質と運を両方手にした霊魂に神は語りかけるのです。



【おめでとう。数多くのヒトの中から君は選ばれた。以下の条件を満たせば、君は生き返ることができる。条件とは――。】



そして俺は、ハッと目を覚ました。
ここは教室。ちなみにもう4時間目で、イコール昼飯なチャイムをいまかいまかと待っていたんだった。
昨日の夜になれない本なんかを読んだから眠気が食い気に勝ったのだろう。珍しく夢まで見てしまった。
制服のポケットから小さい砂時計を取り出す。
今は逆さになっているが、中の銀色の砂は重力に逆らって上に落ちていた。
そりゃそうだ。これは普通の砂時計じゃない。
重力なんぞに負けて落ちる方向が変わってもらっては困る。
残った砂は、もう少ない。
まだ落ちていない砂の上に浮遊する文字は10を示していた。
これは、終わりまでの時間だ。
必要なデータは全部揃えて何度も確かめた。
でも、これですべてが出そろったわけじゃない。
最終テストを行わないといけないからだ。
そのときに標的に全力を出させないと駄目だが、そのための特別な舞台もとうに準備済み。ぬかりはない。
あとは怪しまれないように標的を舞台に招待するだけだ。
じっと砂時計を見ていた俺は、自分の手が震えているのに気づく。
俺らしくもない。これは仕事だ。
逃げることなんてできない。やり遂げなければ。
そして、自嘲する。
俺も随分と人間らしくなったもんだ。
幕を引こう。
俺が完全に人間になってしまう前に…
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