SILVER:

□SILVER:Ver.誕
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四階の廊下奥から二番目


――英語科準備室





ソファーやティーセット、机等を持ち込んで私物化しているそこは、煩い女子生徒から逃げるにはちょうど良い場所


この特別教室のある校舎の、しかも準備室しか無い四階には滅多に生徒が来る事はなかった







…例外はただ一人
――獄寺隼人


合鍵を渡してあるので、仕事をしに来たら居た…なんて事はよくある



部屋の奥に物を置きたくないので、必然的に資料等は扉の近くにかたまる

それを幾度となく倒され、大変な事になったのは記憶に新しい



その時の様子を思い浮かべながら、黒革張りのソファーに座り込む




「さぁ、付いて来たよ
話が有るんじゃないの?」



その言葉に返事は無く、不思議に思い振り向く

見えたのは、入口近くで俯いて動こうとしない獄寺




ソファーから腰を上げ、ゆっくり近付く
心なしか震えている肩に手を置いて、顔を覗き込んだ



「はっ…離せっ!!」


両腕で顔を覆い、暴れられては表情が見えない


でも、声を聞けば解る






「――泣くな」


「泣いてっ、なんか…、ねぇっ……―!!」





顎を捉えて上を向かせる
少々強引だが、噛み付く様なキスをした


涙の味のする唇をちゅっと吸い上げ、濡れている頬に舌を這わせる




「んくっ…ふえ、ッ」


まだ鳴咽で喋れない獄寺を抱き寄せ、あやす様に背を撫でる

すっぽりと納まった身体は、さっきの様に震えてはいなかった



「…ねぇ、僕は君に何かした?
――話してよ…」





眉を寄せ、困ったような笑み
雲雀の人より体温の低い手が、獄寺の熱を冷ましていった






やっと止まった涙

しばしの沈黙の後、一言ずつ確かめる様に言葉を紡ぐ


「……なぁ、俺は…っ
――お前の何なんだ?」


「恋人でしょ
もしかして、不安…?」







「……おぅ…っ」




「なんで?
ちゃんと言ってくれないと判らないよ」



泣くのを我慢しながら言われたその言葉は、なんとも痛々しい

これ以上刺激しない様に、出来るだけ優しく声を掛ける




「……大事な事、教えてくれなかった…」


「大事な事…?」











「――昨日、何の日だよ…」






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