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□愛し君
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のんびりとした風が吹く、暖かな午後。
今日から個人面談の始まる並中は、この時間になると殆どの生徒が帰宅している。
残っているのは、極小数。
そんな中でも、風紀委員は今日も校内の見回り。
彼――
雲雀恭弥もその一人
元々、委員長である雲雀は見回りに参加しないつもりだった。
だが、人数が足りなくなってしまったので、渋々参加しているのだ。
人数が足りなくなった理由は、昨日の昼休みに遡る。
不運な風紀委員数名が、雲雀の逆鱗に触れてしまったのだ。
頗る機嫌の悪かった雲雀は手加減なんて元から知らないかのようなめった打ちで、鬱憤を晴らした。
おかげで彼らは病院送り。
自分達のタイミングの悪さを呪う前に、雲雀のトンファーが命中していた。
――…とまぁこんな経緯で今に至る訳だが。
今日も今日とて、雲雀の機嫌は昨日に引き続き最悪だった。
何せ、手の中に在るのは大量の書類の山。
見回りは早く終らせて来たものの、(実際は委員長の権力をフルに使って、他の奴に押し付けて来た。)これを見ると憂鬱になる。
さらに、最近全く恋人――、獄寺隼人との時間が取れない事も彼の機嫌を悪くする原因だ。
「ハァー…」
雲雀は小さくため息をつくと、隼人が待って居るであろう応接室の扉を開けた。
「おかえりー」
革張りの黒いソファーに背中を預けて隼人が言う。
何時もの指定席。
「うん。ただいま…。悪いけど、今日もやる事があるんだ」
「良いって、良いって。」
そう言って振り返る隼人を見て思考が止まる。
所謂、フリーズ
「どうした?雲雀」
首を傾げる彼の頭には、赤くて丸いものが付いた――ちょうど女子が着ける、かわいらしいヘアゴムがあった。
前髪を緩く結んであるそれは、隼人をより一層幼くさせる。
いつもは髪が掛かって見えづらい、大きな翡翠色の瞳も今は良く見える。
「雲雀?」
その声に止まっていた思考が動き出す。
すると、至極不思議そうにしている彼と目が合った。
未だに混乱する頭で、漸く声を発する。
「はっ、隼人。それ……」
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