SILVER:

□SILVER:Ver.生
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お前と一緒にいると、いっつもドキドキする


心臓が、有り得ない早さで脈打つ

きゅうっと、痛い程締め付けられて、上手く呼吸が出来ない



でもそんな事すら、幸せの一部なんだ






***



外に出てみると、まだ止みそうもない雨

さっきより、強くなってる気がする



「あちゃー。傘あるか?」

「まさか。走るよ」


言われるまま手を引かれ、雲雀が車を止めてる所まで走った

聞けば、今日は朝から雨だったので、バイクじゃないそうだ



俺が一人暮らしってのもあるけど、よく雲雀の家に転がり込んでる

だから今日も当たり前の様に、車の助手席のドアを開けた






「えっ…」



目に入ったのはシートの上に載っていた、俺の好きなブランドのロゴが入った箱と、1枚のカード


一瞬、雲雀が置きっぱなしにしてただけかと思ったが、カードの宛先は…俺

文面は、












『Buon Compleanno.』




雨に濡れるのも構わず、それに見入ってしまった



「何してるの。…早く乗りなよ」


声にはっとなって、雲雀を見遣る
いつも通り、シートベルトをいじってる姿に、少し混乱してしまう


「ひばっ、これ…」




未だ車に入らない俺を見かねてか、腕を強引に引かれて車に入れられた


「風邪、ひくじゃない」

「だって…っ!!」



不意に合わせられた唇
雲雀の綺麗な顔が目の前にあって、視線が外せない

優しいそのキスは、俺の動きを止めるには充分で



離れた後は、心臓の鼓動が雲雀に聞こえるんじゃないかって程高鳴る



「――なぁっ…これ、」

「ん、プレゼント」

「……そっか、俺、誕生日だったのか…」

「君さ、にぶ過ぎ」

「しかたねぇじゃん。忘れてたんだし…」



幸せって、こういう時に言うのかな
誰かに祝って貰うのって、こんなに嬉しい事なんだな


ぽろぽろ、頬を流れる涙
あぁ。嬉しすぎると、涙までも出てしまうんだ



そっと、優しく
雲雀の指先が、涙の筋をなぞる


「おかしいな。泣かせる為にあげたんじゃないよ。…ほら、笑って?」

「こ、れでもっ…、笑ってんだよっ!!」

「へぇ、そうなんだ――」



もともと近かった距離
埋めるのは簡単で

重なった唇から、温度が広がる
歯を割って入って来た舌が、やんわり絡められる



それは甘くて甘くて、蕩けてしまいそうな
それでいて、全てを飲み込んでしまいそうな…、そんな吻付け



音を立てて離れた唇

ふわふわ、浮いてるような感覚が続く中、雲雀の肩に顔を埋めた


人に祝って貰うなんて、初めてに等しい事で
そういえば。と、昔の朧げな記憶を手繰り寄せるが確かなものは無く、有るのは孤独感

だからなのか?
どう言い表せば良いのか分からない感情が押し寄せる







ただ言える事は、


「ありがと、な…」

「恋人なんだから、当然の事だよ」



"恋人"
今はまだその言葉が擽ったいけど、現実味を帯びる日が来るのだろう




「なぁ、…恭弥の声で聞きたい」


きゅっ、と握ったカード

これだけでも、もちろん嬉しいけど、やっぱり欲張ってしまう


「あぁ、良いよ。―――…誕生日おめでとう。隼人が生まれた、この日に愛を」

「…俺には??」

「ふふっ…。愛してるよ」




言葉が心を満たす
堪らなくなって、皺になる事も考えず、雲雀に抱き着いた


そんな、最高の誕生日






***



雨が降っている


強まる雫は、容赦なくフロントガラスを叩く



止む気配は無いけれど

…明日は晴れればいいな。




END


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