短篇小説『静白』
□トモダチのキモチ
1ページ/12ページ
トモダチのキモチ
「あ、あの!小手川君!!」
「…田村か?」
温室の作業を終え、身の整理をしていた時の事
夕日が差し込むこの温室
田村ひよりの声が聞こえ振り向く
「あ、きょ、今日も作業ッスか?お疲れ様ッス!」
「…まぁ、委員会の仕事だからな」
纏めた髪を一度解く
土が付いたりしていないかを確認して再び結ぶ
「……」
「……」
水をやったばかりのキキョウの花がキラキラと光る
俺は髪を結びながら明日は剪定をしよう等と考えていた
「……」
「……」
…それにしても
田村は何をしに来たのだろうか
小早川や岩崎やれいはの友人であり
俺の友人でもある彼女
放課後、授業が終わった後彼女は部活に向かった筈だ
今は最終下校時刻を多少過ぎ、帰宅の波は収まりかけている時間
そんな中に田村ひよりは居る
「…何か用事か?」
……
…
「…何か用事か?」
「うぇ!?よ、用事と言うかッスね!?」
突如、小手川君に声をかけられ、返事が裏返ってしまった
私は顔の前で手をブンブン振って、ごまかす
「…?」
「えっとッス、ねぇ…」
中々口に出せない
一人活動が長引いてしまい
一人帰る途中温室を除き
彼を見つけて
一緒に帰りたいと思ってしまったのだから
「……」
「……ッ」
私は、まるで自分の黒歴史ノートを見られた時と同じ位に恥ずかしいと感じていた
小手川君を前にして言葉が上手く出てこない
小早川さん達を前にした時の様な軽口が言えなくなる
「…田村」
「あ、な、何?」
私は結局言えなかった
小手川君はシャツを正し、上着を脇に挟んで鞄を持ち歩き始めていた
「帰るぞ」
「は、はいッス…」