短篇小説『静白』
□夏物語
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夏物語
「あ、れい君」
「……?」
茹だる様な暑さを持つ本日
世間は所謂夏季休暇
夏休みと言う日程と成っている
その夏休みに、俺は陵桜学園温室の前に立っている
温室の世話は、学校の委員会役員の業務として、指示されている事で在り
夏休みで在ろうと、その役目に変更は無い
急務の日の水やり等は
委員長の計らいもあり、警備員の老人が資料を元に行ってくれる
非常に助かる話
その温室の前
扉を開けようとした時
何故か呼び止められる
「…小早川?」
「今来たところ?偶然だね♪」
声の主は小早川ゆたかであった
彼女は一年D組、もう一人の飼育委員
今年の四月
彼女と共に、様々な植物、生物、環境整備をしてきた
病弱で貧弱であるが、頑張っている姿は評価に値する
夏休みの間
飼育委員の活動は、基本的に交代制と成っている
今日は俺の担当と成っていた筈だった
先週一週間は小早川
今週一週間は俺
理に適った、論理的な役割決め
その小早川
何故か俺の後ろから現れ、近寄って来たので
俺は多少予想外の出来事に吃驚する
「…今日からは俺の予定だった筈だが?」
「うん、分かってるけど…何と無く来たくなって」
実に非論理的だ
喉まで来た言葉を飲み込む
小早川は笑顔で俺に対し言う
「それに、お花達に一週間会わないのは心配で」
「……そうか」
実に抽象的であるが、敢えて何も言わない
小早川の憂いの為にも、俺は温室の扉を開けた