短篇小説『静白』

□返して。
1ページ/11ページ

返して。




「あら」

「…どうも」


駅から出て暫く歩いていると、見た事のある後姿を見つけました

「今帰りですか?」

「はい…」

その人は立ち止って私の顔を一瞥した後、仏頂面と言いましょうか…無表情と言いましょうか…

兎に角、判別し難い表情で私と向き合います

「では、途中まで一緒に如何ですか?」

「…構いません」

小さく頷く彼


昔、みなみさんと探検した事の在る大きなお屋敷

其処に新しい住人がやって来て、既に数ヶ月…

ご近所から陵桜学園に通う方が多くて嬉しい事です

お話も弾みます


「……」


その住人の一人…小手川れいさん

少し人付き合いが苦手…な方です

今こうして並んで歩いていますが…

前一点を見つめて、視線をずらしません


「(…相変わらず…静かな方です)」

私は鞄を持ち直してコホン…と咳を一回

「今日は飼育委員ですか?」

「はい…温室の作業で手間取ってしまって」

れいさんは顔を少しだけ傾け、私の方向を向きます

目は動かず真っ直ぐですが

「この間、温室をお昼に利用させて戴きました」

「……」

「泉さん達と一緒だったんですが、皆さんとっても綺麗だったと仰ってます」

「そうですか」

「私も同じ気持ちです、小早川さんにもそう、お伝え頂けますか?」

「はい」

れいさんはそう返事をし、顔を再び背けます

れいさんとの会話は何時もこの様な感じです

話題が終わると、れいさんは口を閉じ、前を見つめます


れいさんから話しかけてくれる事はとても少ないです

私は泉さん達の事や委員会で在った事等を話すのですが

れいさんの口からみなみさん達のお話を聞く事はありません
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ