長編小説第二集『静白』

□第二章 委員
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第二章 委員







「…ん…ふぁぁ…」


何時もの日差し

鳥の鳴き声で目が覚める


「……」

覚醒して暫く布団の中で伸びる

昨日日本の教科書を予習していたからか…

未だに頭が重い…


「……」

ニ、三分そうしていただろうか…

身体を持ち上げてベッドから降り立つ

棚に置いてある銀時計は四時を指していた

「さて…」


服を脱ぐ

昨日は少し暑かったから汗をかいたみたいだ…

肌に纏わりつくベタ付きを撫でる

クローゼットから制服を取り出し着る

棚に置いてある髪留めで髪を束ねる

鏡を見て何時もと変わらない自分である事を確認した…問題無い


…ふと

机の上に置かれた教科書に目が行く

昨日片付けずに眠ってしまったらしい…

「…?」

そして、古典の教科書に名前を書き忘れているのを見つける

これは失敗…

マジックペンを用意し、教科書の裏表紙に名前を書く



「小手川れいは…と」

口に出して確認

…うん、合ってる

ソレを鞄にしまいもう一度鏡を見る

「…さて…朝御飯の準備しなきゃ」


私はキッチンに向かった




・・・・・

・・・



「よし…完成…」


グツグツと音を発する鍋に蓋をする

フライパンにはハムエッグ

お皿にはレタスサラダを盛る

毎日の日課である朝食作りを終え、エプロンを脱ぐ

さっきの鍋は弱火のままにする

昨日の余りのスープを使ったビーフシチューだ

夕飯にするから煮込んでおく



トントントントン…


私は階段を昇って行く

時間は六時…洗濯をして料理をして…

まだ大丈夫…時間はある筈

廊下を歩いて行くと、窓から綺麗な桜が見える

今日明日が見ごろかも知れない

ソレを過ぎたら…散った桜かな

そんな情景を思い浮かべながら、目的の場所へ向かう


コンコン…


ノックを二回

「……」

反応が無い

「…兄さ〜ん?」

私は扉を開け中に入る

ひんやりした部屋…

そこの机の上のパソコンの灯りが、その部屋の唯一の光源だ


「……」

その机に伏している人…

私の兄さん…小手川れいだ

私は兄さんの肩を揺らして声をかける

「兄さん?兄さん?」

「…ン…」

兄さんは幸い直ぐに目を覚ました

目をパチパチと二回開閉させ、欠伸をする

「…れいはか」

身体を起して、兄さんは首を横に倒す


ゴキゴキ…


あまり好きじゃ無い音が鳴る…

「朝だよ?学校行ける?」

「…問題無い…」

そう言って立ち上がる

昨日最後に会った時と同じ格好

兄さんは、机の横に在る冷蔵庫から水を取り出して、一口飲む

「…ハァ」

「朝御飯食べるでしょ?」

「ああ…先にシャワーを浴びて来る」

兄さんはそう言って、スリープ状態だったパソコンを起動する

映るのは数字と図が並ぶ、何かの処理画面

兄さんはそれを保存した後立ち上がる

「シャワーで寝ないでね?」

「…分かっているよ」

そう言って兄さんは部屋から出て行った


私は床の上に散らばる資料や本を拾い上げ…

…昨日も同じ本を拾った気がする…

「よっと…」

一際大きい辞典を元の場所に収め

私は兄さんの部屋を出る


その後兄さんと朝食

今日は兄さんがサラダが美味しいと言ってくれた…

キッチンで簡単に食事と洗い物を済ませて

私は残りの雑務

兄さんは着替えに行く

時刻は六時四十分…



リンゴーン…



「あ…」

階段から降りて来て丁度

インターホンの音がする

急いで返答をする為、キッチンの受話器を取る

「はい…ドチラ様でしょうか」

一応適当な事を聞く

大体予想は付いている…時間もぴったり


『…岩崎です…れいはさん』


昨日の約束通り

みなみさんは迎えに来てくれた

「あ、みなみさん?直ぐ行きますね?」

そう言って私は一度通信を切る

キッチンを出て、兄さんを呼びに二階へ…




「れいは…俺は此処だ」


背後の玄関ホールから声

「あ、何時の間に居たの?」

兄さんは門の前で鞄を持って立っていた

私は兄さんの元に駆け寄る


「それじゃあ、行こう?兄さん」


兄さんは何時も通り

小さく頷いて扉を開けた
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