長編小説第二集『静白』

□第二章 委員
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…家から出て日の光に目が眩む

日差しはどちらかと言うと苦手だ…

眩しいのは当然の事だが、一瞬目が白ける

それが不愉快


「お早う御座います、みなみさん」

「お早う…れいはさん」


門を出て桜の花びらが落ちている道

其処には岩崎みなみが立っていた

昨日れいはが言っていた通り…学校に共に登校する様だ

………


「…小手川君も…お早う」

「……」

岩崎が挨拶をしてくる

……

「兄さん…」

「…お早う」

れいはに即され一応礼をしておく

……岩崎は会釈して返す


「…それじゃあ、行きましょう」

「はい…」

「……」


何故か発生した沈黙をれいはが破った

駅に向けて俺達は歩きだす




―――

――



「…保険委員って、病人の保護以外にどんな仕事をするのかしら…?」

糟日部駅に到着してから数十分

れいはは岩崎みなみと会話しながら歩いている

学校に向かう道…人通りもそれなりの物に成って行く

現在時刻七時四十分

遅刻の可能性は皆無だが、走っている生徒が数人居る…

……背丈から判断するに、二年三年の生徒だろう

今日の予定の中にクラブ紹介が在った

…恐らくは其れの準備

……

如何でも良い事

れいはと岩崎みなみは未だ同じ会話を続けている

「多分…薬の在庫の確認とかだと思う…」

「成程…保健室を中心に働くんですね?」

保険委員だからな


校門が見えてくる

この学校は日本におけるそれなりの進学校なので

金の掛かり用も通常の上を行く

その証拠とも言うべき巨大な校舎

その下に複数人の人間が並んでいた


「柔道部入りませんか!?」
「サッカー部!部員の集中で―す!」
「けいおん部で―す!」


案の定様々な服装の人間が俺達の姿を認知して近寄って来る

この状況、極めて不愉快

「兄さん…」

「……」

…騒がしい所も嫌いだ…



―――

――


教室


俺達が配属されているは1年D組

廊下の端にある教室


「…未だそんなに人は居ない」

岩崎みなみが教室に入って言う

「少し早かったかな…」

「……」

れいはと岩崎みなみを尻目に

俺は席へと着く

窓際の最後の席…校長に頼んで此処にして貰った

何かと便利な席だ

れいはは隣

学校の席順等正直如何でも良いが

最善の策を取る事は悪い事では無い…


「……」

席に着いて荷物を整理する

授業が未だ始まっていないので、特に何も持ってはいないが…

筆記用具等は持って来た

…れいはが準備したものだが


「岩崎さん、小手川さん、お早う御座います!」

席に着いて直ぐ

岩崎みなみの席近くで話していたれいは達の声

其処にもう一人聞き覚えのある声が響いた

「お早う…小早川さん…」

「お早う御座います」


ちらと確認する

小早川ゆたか…

昨日下校を共にした人間のもう一人

小学生の様な体躯をしているが、れっきとした高校生らしい

昨日も思ったが、制服に着られている様な奴だ


「お兄さんも、お早う御座います」

…わざわざ、席に近寄らずとも良い物を

小早川ゆたかは間近で大きく会釈をしている

「……」

「兄さん」

「…お早う」

「はい!お早う御座います!」


…ふん


顔を上げた小早川ゆたかは笑みを浮かべている

何だ…何が楽しい

俺は窓の方に顔を向ける…蒼天には雲一つ無い

「今日は初めての委員会ですね!」

「…?」

…後ろから声

……

「小早川さんは…小手川君と同じ飼育委員…」

先程まで遠くに在った岩崎みなみの声が、何時の間にか俺の後ろに在る

「……」

顎に手を置いて、俺は一応其方を見る

何時の間にか俺の周囲に三人…

れいはは何時もの事だが、不確定要素の二人…

「……」

「飼育委員はどんな仕事をするんでしょうか?」

小早川ゆたかが考える仕草

背も小さければ、挙動も小学生の様に見える

「…先生も言っていたけど…植物や動物の世話をするんだと思う…」

「生物の飼育…ですか…」

れいはは嬉しそうに俺を見ている

飼育委員…

昨日役員決めの際、適当に二人で話して決めてしまったが…

「私は金魚位しか生き物を飼った事ないな〜」

小早川ゆたかが呟く


「お兄さんは何か飼った事在ります?」


「……」

俺はジッと小早川ゆたかを見る



コイツ……



「……」

「あぅ……」



………


「…特に…」

「…え?」


「特に…生物を飼育した事は皆無…」

「そ…そうなんですか!?」


否定の答えを言ったのにも関わらず嬉しそうな声色

……


「えっと…有難う御座います!」

「…」

何に対して礼をしているのか理解し難いが…

小早川ゆたかは、再び頭を深々と下げている

「此れからも宜しくお願いします!」

「……」


俺は首を縦に振って再び空を眺める


…空の蒼さも嫌いだ…


気まぐれに適当な事をしてしまうから…
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