読み物
□人魚姫・改
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深い深い海の底。
何者も寄せ付けないその場所には、小さな人魚の国がありました。この国には十八歳になったばかりの美しい姫がいました。
人魚たちは十八歳を迎えると、海の上に出ることを許されていたので、人魚の姫もたくさんの仲間に見送られながら海上へ出て行きました。
「いってらっしゃいませ、乱菊姫。」
人魚姫の乱菊が海から顔を出すと、最初に見えたのは雲に隠れながらもぼんやりと光る月でした。
初めて見る世界に心酔していると、近くに豪華な客船が停船していました。
その客船からは人の笑い声や音楽が聞こえました。
人魚姫がデッキを見上げると、騒がしい船内と裏腹に明かりもなく、静かでした。
しかし…一つだけ、人影がありました。人魚姫はその人影に目を奪われました。
わずかな月の光を受けてさらさらとなびく銀の髪。憂いを潜めた横顔。そして朧月を見ているのであろう、自分と同じ青い瞳。
その全てが人魚姫の心に入り込みました。
「なんて美しい…。」
人魚姫は人間の王子にすっかり見惚れてしまい、時が経つのも忘れて魅入っていました。